「率」よりも「額」に針路を取れ
「あの先輩も、あのシェフも、これを知っていたら店を潰さずに済んだと思うと、やるせない気持ちになります。」
ある飲食店の店長さんから、無念のつぶやきをお聞きしました。
私も同じ気持ちです。ネットショップで売上だけを追って、売上No.1賞を獲得して称賛され、翌年には消えていった人たちをたくさん見てきました。
その時に私も思いました。「これを知っていたら、多くのお店がつぶれずに済んだかも知れないのに。。。」
「これ」とは何でしょうか?
額 > 率
利益率よりも、利益額で意思決定するということです。どういうことでしょう?
そこには「利益率の常識」から離れられないお店の実態がありました。そのことを店長さんが教えてくれました。
飲食店では何故か、原価率30%が指標?!
よく「この業界では、利益率、原価率は○○%だよ。」と言われます。飲食店では、どうやら原価率は30%前後が定石と言われているようです。
その店長さんは、お金を特集している飲食店業界雑誌の切り抜きを見せてくれました。
なるほど、原価率35%と書いてある。
そして「原価を10%下げろ!」とあるレストランで言われている話を聞かせてくれました。
むむ、原価を10%下げる。それは素人が聞いてもなかなか厳しそう!
社長から言われた社員さんが、取引先に必死で仕入れの値段交渉している姿が目に浮かびます。しかし仕入先にとっては価格ダウン。10%もの値下げは必死で抵抗するでしょう。
「じゃあ値引きするんだったら食材のランクを落としてよ。」みたいな話になるかも知れませんね。そうすると料理が美味しくなくなってお客さんも離れていくでしょう。
お客さんが離れると購買力そのものが落ちて取引量が減り、どんどん取引関係も悪くなっていき、仕入先は別の売り先を求めるようになるかも知れません。
何だか悪循環が生まれることしか想像できないですね。
店長さんがお知り合いのレストランでこの原価を10%下げるというお話を聞いた後、車の中でずっと考えていたそうです。
そしてこう思いました。
「50円値上げするほうが良くないか?」
なるほど、それはお客さんの立場から見ても気づかないくらいの値上げかも知れません。原価を叩くよりも思い切ってできそうです。
じゃあお店の収支はどうなるでしょうか。実際に計算してみたのがこの図です。
1食1000円(P)の料理で300円(V)の原価、700円の儲け(M)。これを月間1000食(Q)売ったとします。
すると売上高(PQ)は100万円、売上原価(VQ)は30万円、売上総利益(MQ)は70万円。
そして60万円の給料や経費の固定費を引くと、(F)会社に10万円の利益が残る(G)お店だったとします。
原価を10%下げることに成功して270円となった場合を青で書いています。
この場合は売上総利益(MQ)は73万円になり、会社には13万円の利益(G)が残ります。
一方、50円値上げした場合は考えてみましょう。今度は赤で書いてみました。
売上総利益(MQ)は75万円となり、原価と固定費が変わらないとするなら最後の利益(G)は15万円。50円だけ値上げした方が利益が出ている!
原価を下げるよりも50円の値上げの方がはるかにハードルが低く、実現可能性が高そう。値段を上げることによって、社員さんやシェフはいい料理とサービスを提供しようと思うでしょうし。食材を見劣りさせることもありません。
少し利益が出たら、食材をもう少し良くしてみたら? つまり原価を上げれば?と考えることもできそうです。料理の評判がさらに良くなり、仕入先も喜んでくれるかも知れませんね。
芋づる的に好循環が起こる映像がどんどん湧いてきます。
利益率よりも利益額を上げる思考
これは、冒頭に書いた「額 > 率」の考え方なのです。
原価率を下げようというのは、ただ「そうすると数字が良くなるだろう」と思う、でも実際やると苦しい悪循環が起こる考え方。
対して「50円だけでも値上げしよう」というのは、利益「額」を増やそうとする積極的な考え方なのです。
原価を10%下げた場合、売上高に対する利益率70%と原価率30%はどう変化しているでしょう。
原価率 270円 ÷ 1000円 = 27.0% 3%減
利益率 730円 ÷ 1000円 = 73.0% 3%増
では50円値上げした時はどう変化しているでしょう。
原価率 300円 ÷ 1050円 = 28.6% 1.4%減
利益率 750円 ÷ 1050円 = 71.4% 1.4%増
原価率は約半分しか下がってません!
しかし、お店の利益は原価を10%も下げた時よりも増えました。
なんということでしょう。原価率、利益率の見た目のインパクトで考えていると、悪循環が起こる間違った方向に意思決定をしてしまうのです。
ぜひ、多くの飲食店の皆さんにこのことを知ってほしいです。
次世代は、間違いなく額で動いている
子ども商店プロジェクトに参加している子どもたちは、小学生からこのことを身体で学んでいます。だから商店街のイベントでは、どの大人商店よりも値付けは高く、ちゃんと決算をし、全員が黒字を出す。
もちろん、そのために日夜商品の研究開発をし、販売では声を枯らしてPRします。
お母さんたちにも自分たちよりも多くの給料を払うのです。
今からの本当の競合店は、近隣の同業種のお店ではなく、こんな次世代なのです。将来、こんな子どもたちと同じ市場でお店を営むわけですよ!
そしてその次世代を育てるのは自分たち親世代。親は子どもに良くなってほしいと思う。そうすると親も良くなる必要がある。
本当に本当のライバルは、次世代を育てる自分自身になるのかも知れませんね。
投稿者プロフィール
- 1966年大阪市生まれ。革新の好循環を起こす「プロの素人」。株式会社こきょう 代表取締役。「教えない」企業研修で何故か良くなってしまう。そのためにTOC(国際認定ジョナ資格)、MG(西研究所認定インストラクター)、20年のEC業界経験で築いたご縁と、大学で河合隼雄氏に学んだ臨床心理学を駆使。
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