台風被災対応を全体最適で大きく改善した市役所さん
2018年9月4日に上陸した台風21号は、関西地方に大きな爪痕を残しました。特に海側の関西空港周辺の被害は、報道のように大変ひどいものでした。
たくらみ屋が子ども商店プロジェクトなどでお世話になっている泉大津市は、関空から電車で30分の海側の都市。当然ながらここでも大きな被害がありました。
よくお会いしている職員さんも昼夜問わず必死で対応されている。。。本当に頭が下がります。
災害時には、公の施設からよくブルーシートが配られます。しかし緊急の業務ですので、災害規模が大きくなればなかなかスムーズに進まないのが実情ではないでしょうか。
泉大津市役所さんも最初は大変苦労されたようですが、実はTOCの「全体最適」の視点を生かして、2日後には大きく改善されました。
天災の多い昨今、緊急時の改善事例の共有は大変意味あることだと思いますので、職員さんから資料提供と聞き取りのご協力をいただき、こちらにまとめさせていただきます。
改善のポイント:
1.ボトルネックだった駐車場の流れを良くした
2.出来るだけ小さな仕事に崩した(配布枚数の小分け)
3.目標とルールを小集団に共有し、自律的集団ができた
以下、ご協力頂いた職員さんの言葉をお借りしてまとめさせていただいております。
★9月7日(初回のブルーシート配布時)
・配布枚数1300枚、1世帯2枚上限
・周知方法 同報系防災行政無線、ホームページ、SNS等
・午前7時に同報系防災行政無線(屋外に設置されたラッパ)で午前8時から市役所で配布と放送
・午前7時20分には行列の長さ、駐車場の混雑状況を勘案し、前倒しで配布開始
・午前8時過ぎには配布終了
良かった点
・配布窓口は5人、整列も5人を横一列で待機してもらうことで、はけるスピードが速かったため、駐車場が空車になるスピードはそこそこの速さであった
・整列については押し合うなどもなくうまくいった
悪かった点
・配布できる人数より多く(150人ほど超過)列に並んだため、もらえなかった人からのクレームが凄まじく、職員につめよる、市長につめよる人が多数発生した
・路駐があったため、市役所前が渋滞した。また、左折・右折で入ってくる車がそれに輪をかけた
・一世帯2枚を上限としたため、一世帯1枚になぜしなかったのかとの声多数
・配布開始とした8時に来てももらえなかった
☆たくらみ屋コメント
この時、駐車場がボトルネックと職員さんは思ったということ。聞き取りから車の流れの想像図を描いてみると、確かに赤い矢印の車の流れがぐちゃぐちゃになっています。
★9月9日日曜日(ブルーシート配布2回め)
・配布枚数1150枚、1世帯1枚
・周知方法、7日と同じ
・午前7時30分に午前8時から市役所で配布と放送。(前回の教訓を踏まえ、時間を短くする)
・午前7時55分、行列の長さを勘案し5分前倒しで配布(予定時間との誤差が少なかった)
☆たくらみ屋コメント
配布枚数を1枚にして「不十分でもまず全員に届く=全員に成果が出る」方法に変更した。TOC的に言うと「大きな山は小さく崩す」の金言の適用。2枚必要な人には、まず1枚目の作業をしていただいてから余ったものをもう一度納品すれば良い。本当に必要な分が行き渡る。
また、余裕を見すぎて開始と周知していた時間にはもうシートが無くて逆に大きな迷惑をかけたので「サバを読んでいた時間」を削った。仕事を小分けすれば待ち時間が減り、余裕時間も小さくすることが可能。
実践した改善点
・周辺の道路状況に大きく影響を与えた駐車場を大きく変更。第1駐車場、第2駐車場ともに左折進入のみとし、誘導に警官を配置。路駐も防止。市役所に隣接する東雲公園を臨時駐車場として開放。第1・第2が満車になった時点で臨時駐車場へ誘導
・もらえない人を並ばせないために、最後尾の人数の状況を駐車場担当等に無線で適宜連絡。情報の共有。
☆たくらみ屋コメント
聞き取りからのイメージ図2のように、車の流れが一方向にスムーズであることが分かる。「ボトルネックの最大活用」として考えると、右折をなくしたこと、路駐を一掃したことが大きく功を奏している。
また、駐車場に入る人数 = 仕事の投入を、ブルーシートの数(今回のボトルネック)に合わせて入れる。TOC的に言うと「投入は全てを制する」。先頭の仕事投入を情報共有することで慎重に行った。
・職員への指示は、①安全第一 市民も職員も ②駐車場への交通規制のルール ③配り方のルール のみ周知。あとは、それぞれのポジションでリーダーを指名し、臨機応変に対応するよう指示。
現場監督の指示以外のところは現場でみんなが考え主体的に動いていた。始まってしまえばだれも監督に指示を仰ぎにこなかったのでバタバタしなかった。
☆たくらみ屋コメント
小集団に分けて目標を小さく分けて共有することで、細かい手段を指示する必要がなくなった。ゴールが共有されておれば、細かい手段は現場で臨機応変に任せることができる。TOCと共に、指示ゼロ経営的ノウハウ。
改善の結果
・8時過ぎには公園が行列で一杯になったが、徐々に列が短くなり、9時には並んだ方全員にもれなくくばることができた
・渋滞、路駐、大きなクレーム一切なし
・1回めに市長に激しく詰め寄った市民も、感謝の声
職員さんの感想:
本件はドラマ化できるのではないかと思うくらいいろいろなことがありました。学ぶことが多かったです。配り方に課題はありますが、ボトルネックにアプローチし改善した事例であると思います。
☆まとめ:全体最適は災害時に強力な効果を発揮する
普段9時から5時のお役所仕事と思われてしまっていることが多い市役所さん。しかしここでもTOCの原則「人はそもそも善良である」 = 誰も悪くしようと思っていない、置かれた環境でみんな良くしようとしているという原則は生きています。
今回は直前にほとんどの職員さんがTOCのことを少しの時間でも学ぶ機会があったので、ボトルネックや小さく崩すという感覚などが、何となく共通の理解として動けていたことは大きかったと思います。
全体を見て、流れを良くする。
職員さんたちは全体を見て、不安不満が募る市民さんを前に可能な限り考え抜いて行動し、結果として大きな改善につながったと思われます。
今回の泉大津市役所さんの全体最適の実例は、多くの災害での緊急対応の参考になると思います。
自然災害の前に我々はなすすべもないことが多いですが、少しでも多くの方が救われ、早期復旧が行われることを願ってやみません。
過去の参考記事 → 「災害時にこそ、ボトルネックと山崩し。」
東日本大震災時の対応事例と、旭酒造さん(日本酒獺祭のメーカー)の豪雨被害の対応事例について書いています。
投稿者プロフィール
- 1966年大阪市生まれ。革新の好循環を起こす「プロの素人」。株式会社こきょう 代表取締役。「教えない」企業研修で何故か良くなってしまう。そのためにTOC(国際認定ジョナ資格)、MG(西研究所認定インストラクター)、20年のEC業界経験で築いたご縁と、大学で河合隼雄氏に学んだ臨床心理学を駆使。
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