人間は不完全と認め、欲求に注目する

「人間、そううまく行かないよね!」

いろんな理論を学んで仕事の現場で実践して行くと、そう思うことが多々あります。

例えば「大きな山は小さく崩す」という言葉があります。たくらみ屋の仕事のベースになっているTOC(制約条件の理論)でよく言われる言葉で、私がこの数年間で最もよく使った言葉です。現実に多くの会社はもちろん、自分の家の生活でもいいことが起こっています。

過去記事:完了を増やすには「1つづつ、1つづつ」

 

しかし! 正直に白状します。こんなに言っていても、私は領収書とか経理の処理をどうしてもためてしまうのです。

そりゃ毎日終わるごとに整理して入力しておけば、あるいは書類を経理担当者に渡しておけば、スムーズに業務が進むのは頭ではわかっています。

でも、わかっちゃいるけどやめられない! ついついためてしまって、どっと仕事を渡して怒られたりします。

うーん、なんでこうなるんだろう?

経営シミュレーションゲームを何回していても、「何でこんなことしたんだろう?!」と思うことがよくあります。

会社を創業した! でも1日目でいきなり社員が退職! っていうことが起こると動揺します。

そうすると、普段取らない行動をしてしまいます。

普通に1人採用し直せばいいものを、その後勢いで3人も4人も5人も採用したりしちゃいます!

もうシナリオが狂っちゃって、その後数年間ずっと苦労したりします。

うーん、なんでこうなるんだろう?

いいことと分かっていて出来ない時は、何か別の満たしたい欲求が働いているようです。

 

不合理な行動をしてしまう時は「欲求」に注目する

大企業でも商品開発等に使われている「アイデア理論」を創り上げた福井直樹さんは、欲求カードというものを使っています。

「アイデアとは、人の欲求に応えてくれるもの」

という福井さんは、トランプ大統領の当選を予言していました。

「今はマイナスを回避したいという欲求が多く働く時代になっている。トランプ氏はその欲求に沿って話している。」

なるほど、そう考えると先程の私の何人も雇ってしまう!っていうのは

「人がいなくて1つも売れない機会損失は耐えられない!」
「機会損失を避けたい、多少のリスクがあっても何としても避けたい!」

という欲求が働いているのかも知れませんね。欲求に注目すると「何故そんなことをしたか?」に新たな視点が開けてきます。

そうすると、一見不合理な行動も先読みができてくるかも知れませんね。

 

不合理な行動は「予測可能」!

「わかっちゃいるけどやめられない!」の人間の行動が経済に与える影響を研究する「行動経済学」という学問があります。

行動経済学のいいところは「人間は不完全なものである」という前提に立っていることです。

これまでの経済学は「人間は完全に情報を知っていて、合理的に意思決定する」ことを前提としてきました。

それは私達の経済活動の基礎となる貴重な知恵を構築してきましたが、それだけでは説明できない「わかっちゃいるけどやめられない!」は厳然としてある。

行動経済学は、そんな不完全な人間に踏み込み始めているんですね。

私は数年前から、イスラエル系アメリカ人のダン・アリエリー教授のコミカルな行動経済学の実験事例が大好きです。

予想通りに不合理」って言うんですよ! 人は不合理で、それは予想できるって言うんです。

面白い事例の1つに、2種類のチョコレートを同時にお値打価格で売る!という実験をしたのがあります。

☆1回目

買えるのは「お一人様一つまで」
超高級チョコ(通常1粒30セント)  1粒15セント
どこでも売ってるチョコ       1粒 1セント

さてこの時はお客さんはどちらを買ったでしょうか? 多くの人は「合理的に比較し」超高級チョコが安く買えるチャンス!と捉えてこのような販売比率になったそうです。

超高級チョコ            73%
どこでも売ってるチョコ       27%

ではこのチョコたちを、たった1セント値引きするとどうなるか?

 

☆2回目

買えるのは「お一人様一つまで」
超高級チョコ(通常1粒30セント)  1粒14セント
どこでも売ってるチョコ       1粒 0セント(無料!)

たった1セント値引きしただけ。経済理論の「費用便益分析」、費用対効果から考えるとあまり違いがないという結論が出そうですが、結果は!

超高級チョコ            31%
どこでも売ってるチョコ       69%

何と、超高級チョコを買う人は32%の減少。多くの人が超高級チョコを格安で手に入れる機会を棒に振ってしまいました! たった1セントの違いのために。

なぜ、こんなに人は不合理に行動してしまったのでしょうか? たった1セントの違いと言えど、無料の力はこれほどまでに人を不合理にするのか?

ダン・アリエリー教授は「人間は、失うことを本質的に恐れるからではないか」と言っています。

つまり、失敗のマイナスを回避したいという欲求が、どこでも売っているチョコが無料になってしまったことで急激に膨れ上がってしまったということですね。

ここでも人間の「欲求」に注目が集まっていることがわかりますね。

 

理念も「欲求」に応えるものに

不安になった時に、先行きが見えない時。理論や命綱のように、ヘッドライトのようにとても頼れるものになることは間違いないです。持てるものは是非持っておいたほうがいいと思います。

しかし人間はいつも不完全なもので、欲求で動く生き物です。

大阪人的意味のアホ(馬鹿らしいけどおもしろい、くだらない)なところも人間にはたくさんある。植木等がスーダラ節で歌っているみたいに「わかっちゃいるけどやめられない」。

理論やこれまで学んだ知恵がうまくいかない時は、それを振りかざすのをやめて「人間は不完全な生き物」ということを認めることから始めてもいいですよね。

それが、指示ゼロ経営を推進する相棒の米澤晋也が言っている「自分だけでは不完全だから、助けてくれ!」と伝えることに繋がり、補い合う集団づくりができてくるのです。

米澤の会社ではみんなで「俺たちをバカにしたやつをギャフンと言わせてやろう!」という「理念」が共有されていて、大きな行動が起こったことがあるそうです。

これは大いなる「欲求」にもとづいていますよね。理念も、崇高なものである必要なんて全然なくて、みんなの欲求に応えたものであればいいってことなんですね。

 

あーあ、またこの時間にアカンやつ。わかっちゃいるけどやめられない(^-^;

 

「わかっちゃいるけどやめられない」が受け入れられる
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投稿者プロフィール

Shigeo Morimoto
Shigeo Morimoto
1966年大阪市生まれ。革新の好循環を起こす「プロの素人」。株式会社こきょう 代表取締役。「教えない」企業研修で何故か良くなってしまう。そのためにTOC(国際認定ジョナ資格)、MG(西研究所認定インストラクター)、20年のEC業界経験で築いたご縁と、大学で河合隼雄氏に学んだ臨床心理学を駆使。

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